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ロシアに関する論文

ロシアの「死にゆく社会」
―― 想定外の人口減少はロシアをどう変えるか

2011年12月号

ニコラス・エバースタット アメリカン・エンタープライズ研究所議長

この20年間、ロシアでは、戦時でもないのに人口が減少するという極めて異例の現象が続いている。総人口は減り、死者の数が増え、人的資源が危険なまでに損なわれている。都市化が進んだ教育水準の高い社会で、しかも平時において、なぜこれほど死亡率が高いのか、その理由は謎に包まれている。このままでは、人口の減少がロシアの経済と軍事力を大きく損なうのは避けられない。問題は、ロシア政府が人口減少トレンズを認識しつつも、危機の深刻さを過小評価し、対策の効果を過大評価していることだ。人口減によって、モスクワは世界経済のパイに占める比率が小さくなることを覚悟しておくべきだし、すでにロシアの軍事力、特に兵力面で大きな制約が作り出されている。自信を失ったモスクワはいずれ無謀な対外行動をとるようになるかもしれない。兵力の低下と軍事技術の衰退に直面したロシア軍の高官たちが、核兵器使用の敷居を低くする恐れは十分ある。・・・

原発事故が子供たちと経済に与えた影響
―― チェルノブイリの教訓
(1986年発表論文)

2011年9月号

ベネット・ランバーグ カリフォルニア大学国際戦略センター 上席リサーチアソシエーツ

チェルノブイリ事故の放射能はヨーロッパへと飛散し、大陸に大きな懸念と心理的なトラウマを作り出した。欧州経済共同体(EEC)は、チェルノブイリから半径1000キロ以内の地域・国から生鮮食料品の輸入を禁止し、公衆衛生当局は、異なる放射線量基準を用いて、チェルノブイリの周辺地域で生産された野菜やミルクが消費されるのを阻止するために様々な措置をとった。・・・低レベル放射線被曝がどのような影響を人体に与えるかについては、専門家の間でもコンセンサスはない。われわれが自然界から放射能を日常的に受けていることは誰もが知っているし、特定の放射性物質は体内でも生産される。必ずしも無害とは言えない、こうした「バックグラウンド」放射線量のレベルは一般に年間100ミリレム(=1ミリシーベルト)と考えられている。この数字が、人工放射線被曝のベースラインとされたにすぎない。・・・・

CFRインタビュー
メドベージェフのロシアからプーチンのロシアへ

2011年9月号

スティーブン・セスタノビッチ 外交問題評議会ロシア・ユーラシア担当シニア・フェロー

2000年から2008年まで大統領を務めたプーチンのロシアでの人気は依然として高い。だが、多くの人は、彼が大統領に返り咲けば「時代からの逆行になる」と考えている。メドベージェフが近代国家の建設にコミットしているのに対して、プーチンは「過去の人」とみなされており、今後、メドベージェフは自らの改革アジェンダをめぐって、どのように首相としての権限を利用していくか先の読めない状況に直面する。さらに、メドベージェフと対立して財務相を辞任したアレクセイ・クドリンが野党勢力の指導者に転じれば、非常に重要な政治的台風の目になる可能性がある。この場合、プーチンがこれまでうまく束ねてきたエリート層に亀裂が生じることを意味するからだ。プーチンもメドベージェフも、いったいどの程度の政治家が今後クドリンに続くかを考えざるをえなくなるだろう。

非国家アクターとしての宗教の台頭
―― グローバル化時代の宗教

2011年1月号

スコット・M・トーマス バース大学上席講師(国際関係)

新しい世界が形成されつつあり、そのおもな担い手は途上世界を構成する国と人々、そして宗教コミュニティだ。そして、昨今の宗教の興隆の大きな特徴は、イスラムの台頭だけではなく、ペンテコステ派と福音主義プロテスタント(福音派)が中国やインド、途上国で大きな広がりをみせていることだ。また宗教系非国家アクターの台頭にも注目する必要がある。世界最大のイスラム組織「タブリギ・ジャマート」、中国の法輪功なども、カトリック教会や東方正教会のように、国際関係に影響を与えるグローバルな宗教プレイヤーの仲間入りを果たしている。しかも、途上世界では社会奉仕ネットワークとテロネットワークの多くが重なり合っている。また、途上国の人々がわれわれと同じ宗教を受け入れても、欧米における(保守やリベラルといった)政治志向をそのまま映し出すことにはならない。グローバル化がいかに宗教を変貌させるかは、テロや宗教紛争といった安全保障上の脅威が今後どう推移するかさえも左右することになるだろう。

新興国という無責任な利害共有者 ―― 時代は「協調なき、多極化」へ

2010年12月号

スチュワート・パトリック / 米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカのパワーが衰退していくにつれて、台頭する新興国は既存の制度を試し、弱め、改革して自分たちの目的に合致するように作り替えようと試み始めている。既存の大国と新興大国の間だけでなく、新興大国どうしの戦略的ライバル関係も高まりをみせている。各国が演じているゲームは一つではない。金融改革や対テロでは協調するかもしれないが、市場シェア、戦略資源、政治的影響力、軍事的優位をめぐっては競いあっている。問題は、アメリカを含む先進国が、パートナー、そしてライバルとしての二つの顔を持ち、国際社会での発言権を強化したいと望みながら、一方では自国を途上国と定義する新興諸国との関係をどのように管理していくかだ。新しい国家を制度に取り込む一方で、可能な限り、これまでの秩序を維持していくには、2世紀前のヨーロッパの大国間協調がそうだったように、常に綱渡りをしているような細かな配慮が必要になる。

ロシアの政治・経済を支配するシロヴィキの実態
―― 連邦保安庁というロシアの新エリート層

2010年12月号

アンドレイ・ソルダトフ Agenture.Ruの共同設立者
アイリーナ・ボローガン Agenture.Ruの共同設立者

ソビエト時代の国家保安委員会(KGB)は非常に大きな力を持つ組織だったが、それでも政治体制の枠内に置かれ、共産党がKGBをあらゆるレベルで監視していた。だが、KGBとは違って、今日のFSB(連邦保安庁)は、外からの監督も干渉も受けない。プーチン時代に入ってから2年後には、FSBはソビエト時代のKGBよりもパワフルで恐れられる存在となり、政治、外交、経済領域での大きな権限から利益を引き出していた。これは、かつてのKGBのオフィサーだったプーチンが、信頼できるのはFSBだけだと考え、この10年間で、国家機関、国営企業の数多くの要職にFSBの人材を任命した結果だった。メドベージェフ大統領が本気でロシアを近代国家に作り替えるつもりなら、まったく制御されていないFSBではなく、国の安全の擁護者を新たに作り上げる必要がある。

より現実をうまく反映できるように世界秩序を再編し、グローバルな統治構造の中枢に新興大国を迎え入れる必要がある。こうみなす点では世界的なコンセンサスが形作られつつある。経済的には必然の流れかもしれない。だが、それは世界の人権と民主主義にとって本当にいいことだろうか。金融や貿易領域では、新興大国がグローバルな交渉に参加するのは当然だろう。しかし今のところ、人権や民主主義をめぐる新興国の政治的価値は、国際社会の主要なプレーヤーおよびそのパートナーが信じてきた価値とはあまりにもかけ離れており、世界の統治評議会を構成する国際機関の中枢に新興大国を参加させるのは考えものだ。新興大国は世界で有意義な役割を果たすのに必要な条件、つまり、内外の市民社会の声に耳を傾け、民主的統治を受け入れるつもりがあるのか、もっと真剣に考えるべきだし、既存の大国の側も、そのような新興大国をあえて仲間に迎え入れることを本当に望むのか、もう一度考えるべきだろう。

ロシアの「内なる外国」北カフカスの混迷
―― 終わりなきロシアの内戦

2010年10月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授(国際関係論)
ラジャン・メノン リーハイ大学教授(国際関係論)

ロシアにおける政治暴力の震源地帯、北カフカス。この地域の混迷にどう対処していくべきか、モスクワは頭を悩ませている。攻撃と報復の連鎖が止まないのは、この地域に流れ込んでいるイスラム過激派のせいなのか、ナショナリズムの高揚が過激な行動を誘発しているのか、それとも、北カフカスの人々がロシアに対して抱く反発が原因なのか。だが、北カフカスをめぐる問題の中枢は、ロシア連邦内でのこの地域の共和国の位置づけられ方にある。北カフカスにおけるテロを一定レベルに抑え込もうとしつつも、モスクワは、この地域で治安と安定を確立できなくても、ロシア人の多くが惨劇に巻き込まれなければ、政治的ダメージは最低限に抑え込めると計算している。現地の展開は現地に委ね、ロシアの有権者がカフカス問題を忘れてくれることを願うこと。これが、モスクワの現在の戦略だ。ロシア政府が現地に代理人、総督を送り込み、力による秩序維持路線をとり続ける限り、この地域は、ツァーリ時代のような「厄介でエキゾチックな帝国の周辺地域」へと回帰していくことになる。

ロシアのNATO加盟を
―― 汎ヨーロッパ安全保障秩序の確立を

2010年7月号

チャールズ・クプチャン ジョージタウン大学教授(国際関係論)

欧米が、ロシアのことを「戦略的なはぐれ者」として扱い続けるのは、歴史的な間違いだ。ナポレオン戦争後や第二次世界大戦後に大国間の平和が実現したのは、かつての敵対勢力を戦後秩序に参加させたからだという歴史の教訓を思い起こす必要がある。冷戦後の現在、ロシアのNATO加盟を実現させることが、汎ヨーロッパ秩序を構築する上でも、NATOの今後に関する論理的な矛盾をなくす上でも最善の方法だろう。グローバルな課題、G20などの国際機関の改革に取り組んでいくにはロシアの協力が不可欠だし、ロシアを参加させれば、加盟国間の内なる平和を促すという、NATOのかつての機能を再確立することにもなる。平和的な汎ヨーロッパコミュニティの実現という新しい目的は、NATOの存在理由を取り戻すことにもつながる。確かに、ハードルは高い。だが、プーチン首相は、大統領になって間もない時期に「ロシアの利益が考慮され、ロシアが(欧米の)完全なパートナーになれるのなら、自分はNATOへのロシアの参加という選択肢を排除しない」と述べている。いまこそ、欧米は決意を持ってプーチンの真意を確かめるべきだろう。

核不拡散と原子力の平和利用を両立させる道はあるか

2010年3月号

チャールズ・ファーガソン 米科学者連盟会長

非核保有国が原子力発電用の原子炉を調達すれば、その分、核不拡散のリスクは高まっていく。原子力発電に切り替えるだけでは、有効な地球温暖化対策とはなり得ないが、原子力発電を新たに試みるに適した国が、厳格な安全基準、管理体制、核不拡散のガイドラインを受け入れるのであれば、核拡散のリスクを伴うとしても、原子力の平和利用を認めざるを得ない。また、核拡散を防ぐには、核能力を獲得することが自国の安全保障問題への解決策だと考えている国の安全保障上の不安を取り除き、核兵器を保有すれば国際関係において大国と同等の立場を手に入れられるとする間違った認識を正していく必要もある。この観点から、国連安保理の常任理事国に日本のような核を保有していない地域大国を迎え入れることも考えるべきだ。国際コミュニティは地域大国が抱く不安を取り除き、核を保有することで得られる過大な名声を剥ぎ取り、原子力エネルギーに非核保有国が抱く不合理な期待を引き下げていくように努力すべきだろう。そうすることで、核廃絶のビジョンを支えていくことができる。

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