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ロシアに関する論文

市場経済・民主主義は淘汰されたのか
―― 旧共産圏改革に関する幻想と現実

2015年1月号

アンドレイ・シュライファー ハーバード大学教授(経済学)
ダニエル・トレーズマン カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 教授(政治学)

旧東側諸国では「市場経済・民主主義モデルへの移行をうまく成功させられなかった。機会をフイにしてしまった」という喪失感が漂っている。年金生活者が苦しむ一方で、少数の新興財閥が誕生している。選挙では不正が横行し、政治は独裁者に牛耳られている。中国の台頭やグローバル金融危機に衝撃を受けた一部の専門家は、「権威主義的国家資本主義が、機能不全に陥ったリベラルな民主主義に対する力強い代替策を提供している」とさえ考えるようになった。だが、この認識は間違っている。むしろ、旧東側諸国の暮らしは劇的に改善している。市場経済・民主主義体制に移行して以降、これらの国は急速な成長を遂げ、いまや人々の暮らしはこれまでよりもはるかに豊かになった。寿命も伸び、幸せに暮らしている。市場改革、民主化努力、そして政治腐敗との戦いは、完全ではなかったにせよ、失敗ではなかった。・・・・

ルーブルショックとプーチンのジレンマ
――欧米に譲歩するか、ソビエトに回帰
するか

2015年1月号

ダニエル・クラウド プリンストン大学講師(哲学)ファイアーバード・ファンドカンタリアン・キャピタルマネジメント共同設立者

米連邦準備制度が金融政策の正常化を試み始めた2014年夏以降、原油価格は低下し始め、1年前と比べて原油価格の水準はいまや半分へと低下している。ロシアの輸出利益の3分の2は原油輸出収益であり、当然、モスクワが巨大な貿易黒字を維持していけるはずはない。控えめにみても、2015年にはロシア経済の規模は少なくとも4%縮小する。すでにインフレ率は8%を超え、今後さらに悪化していく。プーチンが何をしようと、この低い水準の原油価格ではルーブルが深刻な危機から脱することはできない。しかも、ロシアの外貨準備は急速に枯渇しつつある。・・・早い段階でプーチンが欧米との関係を修復すれば、1998年のようなルーブルのクラッシュは回避できるかもしれないが、それには大きな政治コストが伴う。一方、プーチンが現在のコースを維持し、権力を維持していくつもりなら、法の支配に基づく政府という体裁をかなぐり捨て、ソビエト流の警察国家を再構築するしかない。・・・

中東ではなく、中ロの脅威を重視せよ
―― 欧州と東アジアの同盟国をいかに守るか

2014年12月号

リチャード・ベッツ   コロンビア大学教授

イスラム過激派がイラクとシリアの大規模な領土を制圧し、ロシアがウクライナに介入し、東アジアでは中国が軍事力を増強している。ワシントンは大きな選択に直面している。これら危険にさらされた地域に介入せずに、運命にすべてを委ねるのか、それとも、状況を正すために危険な賭に打ってでるのか。政策決定者は二つの設問を考える必要がある。一つは危機にさらされている利益がどの程度重要か、もう一つは、その利益を守る上で軍事力を用いるのがどの程度効果的かだ。この設問への答から考えても、いまやアメリカは戦略的優先課題の焦点を伝統的な国家間紛争に再び合わせるべきだし、ワシントンは中東から完全に手を引けるようになるのを待たずに、最優先課題をヨーロッパとアジアにおける同盟国の防衛に据える必要がある。

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

CFR Meeting
証言 いかに冷戦は終結したか
―― ドイツ再統一とNATO加盟問題

2014年12月号

ロバート・ブラックウィル/米外交問題評議会シニアフェロー
ビタリー・チュルキン/ロシア国連大使
フランク・エルベ /元ドイツ外務省政策企画部長

「ゴルバチョフとシュワルナゼは、経済的にも社会的にもソビエトが深刻な状態に陥っていることを理解していた。・・・ソビエトの指導者たちは、アメリカを中心とする欧米との新しい関係が、ソビエトの経済問題を解決する助けになると考えていた」。(フランク・エルベ)

「あまりに性急に交渉を進めれば、ソビエト市民がまだ事態を受け入れる準備ができていないために、ドイツ再統一も見果てぬ夢に終わる。交渉を過度に緩慢なものにすれば、ゴルバチョフに敵対する勢力が連帯し、この場合も統一は実現しない。これがシュワルナゼの立場だった」。(ロバート・ブラックウィル)

「ゴルバチョフは、自分自身が批判的な体制を維持したいとは考えていなかったし、ある意味では自分が政治的に生き残りたいとは考えていなかった。だから、(東ヨーロッパへの軍事介入を選ばず)状況を流れに委ねることを選んだ」。(ビタリー・チェルキン)

当時、ドイツ人の多くは「NATO加盟にこだわれば、再統一は実現しない」と考えていた。他に再統一を果たす道筋がなかったために、中立国家になるしかないと感じていた。 だが、12月12日にベルリンで演説したベーカー国務長官は「統一を果たしたドイツがNATOに加盟することを条件に、ワシントンはドイツ再統一を支援する」と表明した。これによって、西ドイツ政府は非常に苦しい立場に追い込まれた。統一とNATO加盟を両立させる方法はないと感じていたからだ。 (フランク・エルベ)

論争 悪いのは欧米かロシアか
―― ウクライナ危機の本質は何か

2014年12月号

マイケル・マクフォール スタンフォード大学政治学教授
スティーブン・セスタノビッチ コロンビア大学国際関係大学院教授
ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

本当のストーリーを知るには何が同じで、何が変わったかに目を向ける必要がある。何が変わったかといえば、それはロシアの政治に他ならない。プーチンは支持層を動員し、野党勢力の力を弱めようと再びアメリカを敵として位置づけた。(M・マクフォール)

モスクワはヤヌコビッチに対して反政府デモを粉砕するように促したが、結局、彼の政権は崩壊し、ロシアのウクライナ政策も破綻した。プーチンがクリミアの編入に踏み切ったのは、自分が犯した大きな失敗からの挽回を図るためだった。(S・セスタノビッチ)

EUとの連合協定は、重要な安全保障合意という側面ももっていた。協定文書は「外交と安全保障政策の段階的な統一を、ウクライナをヨーロッパ安全保障へより深く組み込むという目的に即して進めること」を提案していた。これは、どうみても裏口からNATOに加盟させる方策だった。(J・ミアシャイマー)

中国とロシアによる反欧米同盟
―― 中ロを結びつける六つの要因

2014年12月号

ギルバート・ロズマン プリンストン大学教授(社会学)

2012年、「中華民族の偉大なる復興」をスローガンとする「中国の夢」を表明した習近平国家主席は、中国がその中枢に位置するアジアの新しい地政学秩序を思い描いている。プーチン大統領も、旧ソビエト諸国をロシアが主導するユーラシア連合構想を表明している。重要なポイントは、両国が冷戦期の中ソ対立を再現しないように、十分に配慮していることだ。モスクワと北京の指導者たちは、欧米の影響力を抑え込むという両国が共有する利益枠組みが損なわれないようにしたいと考えている。実際、モスクワと北京は欧米秩序の正統性に対抗する外交路線をとることを心がけ、両国の野心的な外交政策については互いにコメントするのを控えている。中ロの結びつきは、一般に考えられているよりもはるかに強い。

ロシア編入後のクリミア
― ウクライナとロシアに揺れる半島

2014年11月号

テレサ・ボンド(ペンネーム) 政治分析者

地理的にはウクライナとつながり、ロシアとは海で隔てられているために、依然としてクリミアは水資源、製品、食肉、電力を含む、ほぼすべてをウクライナからの供給に依存している。だが、ウクライナは次第にクリミアへの締め付けを強化している。しかも通貨がウクライナのフリヴニャからロシアのルーブルに切り替えられたことで、食糧価格は一気に50%も上昇し、いまやチーズや魚の価格はかつての2倍に、ビールとウオッカの価格は3倍に高騰している。一方でクリミアの消費者が直面している問題をロシアが解決できるかどうかも、はっきりしない。地理的・ロジスティックな制約が常につきまとうからだ。ロシアに組み込まれたことで政治的にもっとも追い込まれているのは、半島の人口の13%を占めるタタール人マイノリティだ。タタール人の指導者は追放され、タタール人市民も厳格な監視下に置かれている。・・・

なぜシリアへの投資が進んでいるか
―― 戦火のなかで進められる投資の目的とは

2014年10月号

アダム・へフェズ  スタンフォード大学ビジネスクール MBAキャンディデート、 ノーム・ライダン  ワシントン近東政策研究所 リサーチアソシエーツ

瓦礫と荒廃のなかにあるにもかかわらず、シリアへの投資が進んでいる。制裁を続ける欧米は戦後シリアに向けた投資を躊躇っているが、中国、イラン、北朝鮮、ロシアがその空白を埋めている。勿論、これらの国も投資から短期的な経済利益を引き出せると考えていない。シリアのアサド政権と同盟関係にある諸国の政府や企業は、投資を経済ではなく、政治目的で捉えている。短期的には経済合理性を欠くとしても、現状でシリア投資にしておけば、今後シリアがどのように統治されるかに影響力を行使できるとこれらの国は考えている。

悪いのはロシアではなく欧米だ
―― プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想

2014年9月号

ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず「グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する」と明言する必要がある。

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