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ロシアに関する論文

プーチンの中東地政学戦略
―― ロシアを新戦略へ駆り立てた反発と不満

2016年1月号

アンジェラ・ステント  ジョージタウン大学教授(政治学)

ロシアによるグルジアとウクライナでの戦争、そしてクリミアの編入は、「ポスト冷戦ヨーロッパの安全保障構造から自国が締め出されている現状」に対するモスクワなりの答えだった。一方、シリア紛争への介入は「中東におけるロシアの影響力を再生する」というより大きな目的を見据えた行動だった。シリアに介入したことで、ロシアはポスト・アサドのシリアでも影響力を行使できるだけでなく、地域プレイヤーたちに「アメリカとは違って、ロシアは民衆蜂起から中東の指導者と政府を守り、反政府勢力が権力を奪取しようとしても、政府を見捨てることはない」というメッセージを送ったことになる。すでに2015年後半には、エジプト、イスラエル、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の指導者たちが相次いでモスクワを訪問している。・・・すでにサウジは100億ドルを、主にロシアの農業プロジェクトのために投資することを約束し、・・・イラクはイスラム国との戦いにロシアの力を借りるかもしれないと示唆している。・・・

新米ロ冷戦の現実
―― 冷戦期以上の米ロ関係の緊張

2015年12月号

ディミトリ・サイメス ナショナルインタレストセンター会長

ロシアにペナルティを科すことが経済制裁の目的だとすれば、われわれは一定の成功を収めている。一方、その目的がロシアをもっと穏健かつ協調的にし、好ましい方向へと向かわせることが目的なら、われわれは意図とは逆の現実に直面している。制裁が続くなかで、アメリカがウクライナに武器を供与し、ウクライナ政府がウクライナ東部(ドンバス)の問題を力で解決しようとすれば、ロシアは歴史的な決定、つまり、ウクライナ全域の占領に踏み切らざるを得ないと考える高官もいる。この場合、300―500万の難民がヨーロッパへと向かうことになる。私の知る限り、モスクワが、これを現実の計画としてまとめているわけではない。しかし、そうした議論があるのは事実だし、この議論を魅力的だと考える高官たちもいる。さらに、包囲網を築かれていると危機感を強めるロシア高官の一部は、バルト諸国の1カ国か2カ国に懲罰を与えることでNATOの安全保障システムが空洞化していることを立証したいと考えている。・・・(聞き手はJeanne Park, Deputy Director, www.cfr.org)

ロシアのシリア介入戦略の全貌
―― そのリスクとベネフィットを検証する

2015年11月号掲載

デミトリ・アダムスキー/IDCヘルズリア 准教授

シリアを安定化させて、ロシアの地域的プレゼンスを維持できるようにすることを、モスクワはおそらく介入の最終目的に据えている。初期段階ではシリアの沿海部の安全を確保し、この地域での影響力の強化を試みるはずだ。この地域には、ラタキヤやタルトゥースなど、ロシアがこれまでも影響力をもってきた施設がある。とはいえ、モスクワはシリアにおける地上戦の殆どを同盟勢力に委ねるだろう。作戦計画に参加し、情報を共有し、ターゲットを選定するとしても、ロシアの大隊をダマスカスで日常的に見かけるようなことにはならない。・・・地上戦を担うのは、残されたアサドの部隊、イランの革命防衛隊と民兵部隊バスィージ、そしてレバノンのヒズボラだろう。問題は、イスラム国に対する作戦を開始した当初は、この同盟勢力間の連帯を維持できても、作戦が長期化し、特にアサドが支配する地域の安定化が実現すれば、同盟勢力の利益認識が次第に分裂し始めると考えられることだ。・・・

プーチンを支えるイワン・イリインの思想
―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

2015年11月号

アントン・バーバシン インターセクションプロジェクト マネージング・ディレクター
ハンナ・ソバーン ハドソン研究所 非常勤フェロー リサーチアソシエーツ

イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

ウクライナの混迷とシリア介入
―― プーチンの策謀に欧米はどう対処すべきか

2015年11月号

ミッチェル・オレンシュタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に軍事介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すことだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が国際社会のアジェンダの後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に対ロシア制裁も緩和されるのではないかと期待している。第2に、シリアに関与することで、「欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を再確立できる」とプーチンは考えたようだ。欧米は安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではなく、この「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだろう。

ウクライナ「紛争凍結」という幻想
―― ロシアが再び武力行使に出る理由

2015年10月号

サミュエル・キャラップ 英国際戦略研究所シニアフェロー (ロシア・ユーラシア担当)

ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

ロシアはなぜシリアに介入したか
―― プーチンに譲歩を求めよ

2015年9月号

ミッチェル・オレンスタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すためだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に制裁も緩和されると期待している。第2の目的は、シリアに関与することで、プーチンは、欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を確立できると考えたようだ。だが、安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではく、欧米はこの「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだ。ウクライナが東部国境を守る権利を認め、ロシアの部隊と兵器を撤収させ、恩赦と権力分有を条件に、ドンバスの指導者たちにキエフへ権限を返還させる必要がある。

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

プーチン・システムの黄昏
―― 民衆蜂起、クーデター、分離独立運動

2015年3月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

大統領に就任した当時、エネルギー価格が高騰していたことに乗じて、プーチンは450億ドルを着服したが、それでもロシアの生活レベルを引き上げられるだけの歳入が国庫に残されていた。ロシア軍は増強され、プーチンの側近たちも甘い汁を吸った。だがいまや環境は大きく変化した。原油価格は崩壊し、今後上昇へと転じる気配もない。欧米の制裁によるダメージも大きくなり、いまやロシア経済の規模は縮小しつつある。いずれプーチンは予算削減に手をつけざるを得なくなる。しかし、(ウクライナ危機のなかにある以上)軍事費は削れない。(政治的支持をつなぎ止めるために)社会保障費も削れないとなると、唯一のオプションは、側近たちが国家から資金をかすめ取るのを止めさせることかもしれない。ここでシロヴィキによるクーデターのシナリオが浮上する。民衆蜂起が起きる可能性も、非ロシア系地域で分離独立運動が起きる危険もある。・・・・・プーチン体制はいずれ崩壊する。

プーチン世代の若者たち
―― ロシアエリート予備軍の現状維持志向

2015年2月号

サラ・E・メンデルソン  戦略国際問題研究所 人権イニシアチブ・ディレクター

ロシアのエリート校の大学生たちは政治に対して非常に懐疑的であるにも関わらず、強い現状維持志向をもっている。彼らの関心は大学でいい成績をとって、政府か大手企業に就職することだけで、チュニジアやウクライナなど世界中で若者が自由と尊厳を求めて抗議行動を起こしていることについて、感銘を受けることはない。むしろ大衆運動は自発的には起きないと考えている。要するに、反政府運動はアメリカが裏で糸を引いているというプーチンの確信を、彼らも共有している。こうした若手エリート層の台頭は、ロシアにおける民主主義の覚醒を少なくとも一世代にわたって遅らせることになるだろう。

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