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ロシアに関する論文

ロシアとの和解という虚構
――トランプとロシア

2017年3月号

ユージン・ルマー カーネギー国際平和財団シニアフェロー
リチャード・ソコルスキー 同財団シニアフェロー
アンドリュー・S・ワイス 同財団バイスプレジデント

アメリカとロシアの対立の根は深い。ドナルド・トランプはキャンペーン中も大統領選で勝利した後も、「なぜロシアとうまくやれないのか」と問いかけてきたが、うまくやれないのは、双方が国益の基礎をなすと考える中核問題をめぐって双方の立場の隔たりが大きいからだ。ロシアによる勢力圏の主張はワシントンには受け入れられないし、「欧米によるロシア勢力圏の侵食」とモスクワがみなす動きへの反発も障害となる。貿易で関係を安定させるのも難しい。実際、米ロが中核問題をめぐって歩み寄るのは今後も難しいままだろう。トランプ政権の課題は、モスクワとの緊張を緩和することではなく、むしろ、それをうまく管理して、さらなる悪化を防ぐことだ。ロシアと突然和解すれば、アメリカとヨーロッパの関係、ヨーロッパの安全保障、そしてすでに不安定化している国際秩序が永続的なダメージを受ける。

冷戦後のロシアの変節を辿る
―― 欧州との一体化から大ユーラシア構想へ

2017年2月号

ドミトリー・トレーニン カーネギー・モスクワセンター ディレクター

冷戦終結直後のロシアにとって、ヨーロッパはあこがれの対象であり、見習うべきモデルだった。だがいまやロシア政府はロシア文明とヨーロッパ文明とは明らかに別物だと考えている。伝統的にロシアに不信感をもっているイギリスが程なくEUを離れるなか、フランスで独自路線を重視するドゴール主義が復活し、ドイツがロシアに友好的な東方外交を復活させることをモスクワは期待している。そうなれば、ロシアとヨーロッパの関係は、経済領域を中心に雪解けを迎え、ロシアにとって大きな貿易パートナーとしてのEUが復活する。だが、そうした関係の改善も、短期間ながらも、ロシアがヨーロッパの一部になることを夢見た1990年代へと時計の針を巻き戻すことはあり得ない。プーチンが2010年まで口にしていた大ヨーロッパが出現することは当面あり得ない。モスクワでは、この構想はすでに中国、インド、日本、トルコ、そしてEUで構成される大ユーラシア(経済)構想に置き換えられている。

民主的安定という かつてない時代の終わり
―― 非自由主義的代替モデルとトランプの台頭

2017年2月号

ヤシャ・モンク ハーバード大学講師(政治理論)

われわれは新しい時代へのシフト、つまり、この半世紀にわたってわれわれが当然視するようになった民主的安定という、かつてない時代の終わりの始まりを目の当たりにしているのかもしれない。これまでと違うのは民主主義に対する代替モデルが生まれていることだ。プーチンは、すでに他国が模倣できるような「非自由主義的な民主主義モデル」を確立している。つまり、リベラルな民主主義は、1930年代のファシズム、1950年代の共産主義のような、イデオロギー上のライバルに再び直面している。しかも、トランプ大統領の誕生で、この半世紀で初めて、世界でもっともパワフルな国が、リベラルな民主的価値の促進や世界のリベラルな民主国家を脅威から守ることにコミットしなくなる恐れがある。・・・

民主主義はいかに解体されていくか
―― ポピュリズムから独裁政治への道

2017年1月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 国家情報会議・副国家情報官
エリカ・フランツ ミシガン州立大学准教授

ポピュリストの指導者が主導する民主体制の解体ペースがゆっくりとしたものであるために、広範な反対運動を刺激するような劇的な展開はなく、反政府勢力を団結させるようなはっきりとした争点も浮かび上がってこない。仮に反政府勢力が組織されても、ポピュリストたちは、彼らを「第五列」、「エスタブリッシュメントのエージェント」、あるいは、「システムの不安定化を狙う工作員」と呼ぶことで、封じ込める。司法や治安サービスなどの権力の中枢を握るポジションに忠誠を尽くす人材を配し、メディアを買い上げることでその影響力を中和し、メディアを縛る法律を成立させ、検閲システムを導入する。この戦略がとられると、実際には民主主義が解体されているかどうかを見極めにくくなる。この狡猾さが、21世紀の民主主義に対するもっとも深刻な脅威を作り出している。

オバマは外交戦略の前提として、世界におけるアメリカの役割をより穏やかなものにすることを考えていた。(アメリカの後退路線によって)自己防衛努力を迫られる同盟国は国防体制を強化し、より自己規制の効いた国際秩序を作りだせると考えていた。一方、トランプはオバマ以上に全面的にオフショアバランシング、つまり、同盟相手へのバーデンシフティングを進めるのではないかと考えられている。トランプは、アメリカのNATOへのコミットメントを低下させ、より取引を重視した同盟関係へと仕切り直し、一方で、東ヨーロッパとシリアについてはロシアの好きにさせると示唆している。先行きを不安に感じているアメリカの同盟諸国に対して、新大統領は同盟諸国を安心させる措置をとっていくべきだが、そのプロセスでリベラルな国際秩序を脅かす必要はない。このバランスをトランプが発見できるかどうかは、今後を見守るしかない。

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

新しい独裁者たち
―― なぜ個人独裁国家が増えているのか

2016年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー 米国家情報会議・副国家情報官 (ロシア・ユーラシア担当)
エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教授(政治学)
ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学准教授(政治学)

極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

なぜプーチンは米大統領選挙に干渉したか
―― トランプ支援とロシアの国内政治

2016年11月号(掲載予定)

グレゴリー・フェイファー 米ジャーナリスト

ドナルド・トランプが(「自分はロシアのプーチン大統領を尊敬している」と語ったことで)、プーチンが見逃すはずもない絶好のチャンスが作り出された。互いに相手を気に入っている2人は、「アメリカの政治エスタブリッシュメントを切り崩したい」と考えている点でも立場を共有している。ロシアが外国をターゲットにしたサイバー攻撃を政治的武器として使い始めたのは少なくとも10年ほど前からだが、大統領選挙のさなかに特定の大統領候補を支援しようとアメリカにサイバー攻撃を試みたのは、今回が初めてだ。しかし、プーチンの目的はロシア国内にある。自分が作り上げた統治システムと80%以上の高い支持率を維持していく上で、間違いなく効き目があるのはアメリカに挑戦していることを国内でアピールすることだからだ。これほど確かな得点稼ぎの方法はそう多くない。プーチンにとって、選挙キャンペーンが展開されるアメリカで、自分が話題にされるだけで十分なのだ。

核兵器と核戦略を問い直す
―― 何のための核兵器なのか

2016年10月号

フレッド・カプラン
ピューリッツァー賞受賞ジャーナリスト

進行しつつある世界政治の変化を十分に考慮できぬまま、われわれは依然として核兵器に固執している。抑止に大量の核兵器は必要ない。オバマ大統領が本気で核戦力の近代化計画を見直すつもりなら、「抑止に本当に必要なものは何か」を再検証しなければならない。核兵器がない状態を想定して、核戦争プランを根底から見直し、何のためにどれだけの核兵器が必要なのかを白紙から合理的に再分析すべきだ。こうした見直しが行われてこなかったのには単純な理由がある。米軍が核戦力を戦略上の前提として重視する派閥を内に抱え、議会も核兵器関連産業や研究所を選挙区にもつ有力メンバーを抱えているからだ。オバマが残された任期中に核の近代化計画の見直しに向けた基盤を作るのは難しいとしても、これは、彼の後継者、そして世界の指導者たちが取り組むべき重要な任務だろう。

なぜイランはロシアに基地使用を許したか
―― 歴史的不信と中東新秩序への野望

2016年10月号

モフセン・ミラニ
南フロリダ大学教授(政治学)

第一次世界大戦後にイギリスとフランスが描いた中東の政治秩序はいまや崩壊しつつあり、ロシアもイランも新しい秩序における自国の居場所に思いを巡らしている。プーチンにとって、ロシアを中東のプレイヤーとして再確立することは、彼の悲願であるグローバルな大国の座を取り戻す上でもきわめて重要な一里塚だ。一方、イランはシリアの将来を決める現在の内戦を、今後の中東秩序を左右する重要な試金石とみなしている。テヘランは、ロシアとの協調は中東での影響力を強化する効果的な手段になると考えているようだ。こうした思惑ゆえに、ロシアに大きな不信感をもつイランも、ロシア軍に国内基地の利用を認めるという驚くべき決定を下した。ロシアとのより緊密な軍事・安全保障関係を築くことで、イランはアメリカの中東政策に対する保険策をとろうとしているとみなすこともできる。・・・

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