1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ロシアに関する論文

民主主義はいかに解体されていくか
―― ポピュリズムから独裁政治への道

2017年1月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 国家情報会議・副国家情報官
エリカ・フランツ ミシガン州立大学准教授

ポピュリストの指導者が主導する民主体制の解体ペースがゆっくりとしたものであるために、広範な反対運動を刺激するような劇的な展開はなく、反政府勢力を団結させるようなはっきりとした争点も浮かび上がってこない。仮に反政府勢力が組織されても、ポピュリストたちは、彼らを「第五列」、「エスタブリッシュメントのエージェント」、あるいは、「システムの不安定化を狙う工作員」と呼ぶことで、封じ込める。司法や治安サービスなどの権力の中枢を握るポジションに忠誠を尽くす人材を配し、メディアを買い上げることでその影響力を中和し、メディアを縛る法律を成立させ、検閲システムを導入する。この戦略がとられると、実際には民主主義が解体されているかどうかを見極めにくくなる。この狡猾さが、21世紀の民主主義に対するもっとも深刻な脅威を作り出している。

オバマは外交戦略の前提として、世界におけるアメリカの役割をより穏やかなものにすることを考えていた。(アメリカの後退路線によって)自己防衛努力を迫られる同盟国は国防体制を強化し、より自己規制の効いた国際秩序を作りだせると考えていた。一方、トランプはオバマ以上に全面的にオフショアバランシング、つまり、同盟相手へのバーデンシフティングを進めるのではないかと考えられている。トランプは、アメリカのNATOへのコミットメントを低下させ、より取引を重視した同盟関係へと仕切り直し、一方で、東ヨーロッパとシリアについてはロシアの好きにさせると示唆している。先行きを不安に感じているアメリカの同盟諸国に対して、新大統領は同盟諸国を安心させる措置をとっていくべきだが、そのプロセスでリベラルな国際秩序を脅かす必要はない。このバランスをトランプが発見できるかどうかは、今後を見守るしかない。

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

新しい独裁者たち
―― なぜ個人独裁国家が増えているのか

2016年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー 米国家情報会議・副国家情報官 (ロシア・ユーラシア担当)
エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教授(政治学)
ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学准教授(政治学)

極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

なぜプーチンは米大統領選挙に干渉したか
―― トランプ支援とロシアの国内政治

2016年11月号(掲載予定)

グレゴリー・フェイファー 米ジャーナリスト

ドナルド・トランプが(「自分はロシアのプーチン大統領を尊敬している」と語ったことで)、プーチンが見逃すはずもない絶好のチャンスが作り出された。互いに相手を気に入っている2人は、「アメリカの政治エスタブリッシュメントを切り崩したい」と考えている点でも立場を共有している。ロシアが外国をターゲットにしたサイバー攻撃を政治的武器として使い始めたのは少なくとも10年ほど前からだが、大統領選挙のさなかに特定の大統領候補を支援しようとアメリカにサイバー攻撃を試みたのは、今回が初めてだ。しかし、プーチンの目的はロシア国内にある。自分が作り上げた統治システムと80%以上の高い支持率を維持していく上で、間違いなく効き目があるのはアメリカに挑戦していることを国内でアピールすることだからだ。これほど確かな得点稼ぎの方法はそう多くない。プーチンにとって、選挙キャンペーンが展開されるアメリカで、自分が話題にされるだけで十分なのだ。

核兵器と核戦略を問い直す
―― 何のための核兵器なのか

2016年10月号

フレッド・カプラン
ピューリッツァー賞受賞ジャーナリスト

進行しつつある世界政治の変化を十分に考慮できぬまま、われわれは依然として核兵器に固執している。抑止に大量の核兵器は必要ない。オバマ大統領が本気で核戦力の近代化計画を見直すつもりなら、「抑止に本当に必要なものは何か」を再検証しなければならない。核兵器がない状態を想定して、核戦争プランを根底から見直し、何のためにどれだけの核兵器が必要なのかを白紙から合理的に再分析すべきだ。こうした見直しが行われてこなかったのには単純な理由がある。米軍が核戦力を戦略上の前提として重視する派閥を内に抱え、議会も核兵器関連産業や研究所を選挙区にもつ有力メンバーを抱えているからだ。オバマが残された任期中に核の近代化計画の見直しに向けた基盤を作るのは難しいとしても、これは、彼の後継者、そして世界の指導者たちが取り組むべき重要な任務だろう。

なぜイランはロシアに基地使用を許したか
―― 歴史的不信と中東新秩序への野望

2016年10月号

モフセン・ミラニ
南フロリダ大学教授(政治学)

第一次世界大戦後にイギリスとフランスが描いた中東の政治秩序はいまや崩壊しつつあり、ロシアもイランも新しい秩序における自国の居場所に思いを巡らしている。プーチンにとって、ロシアを中東のプレイヤーとして再確立することは、彼の悲願であるグローバルな大国の座を取り戻す上でもきわめて重要な一里塚だ。一方、イランはシリアの将来を決める現在の内戦を、今後の中東秩序を左右する重要な試金石とみなしている。テヘランは、ロシアとの協調は中東での影響力を強化する効果的な手段になると考えているようだ。こうした思惑ゆえに、ロシアに大きな不信感をもつイランも、ロシア軍に国内基地の利用を認めるという驚くべき決定を下した。ロシアとのより緊密な軍事・安全保障関係を築くことで、イランはアメリカの中東政策に対する保険策をとろうとしているとみなすこともできる。・・・

復活したロシア・トルコの歴史的確執
―― ロシアの脅威と欧米関係のバランス

Webのみ

ジェフリー・マンコフ 戦略国際問題研究所シニアフェロー

20世紀末以降、欧米主導の国際秩序に対する反発を共有するトルコとロシアは相手の地政学的懸念に配慮し、経済協力を優先するようになったが、この数年で流れは変化し、いまや地域的優位の確立を目指す伝統的な地政学対立の構図が復活している。ロシアとトルコが良好な関係にあったこの15年は、むしろ両国の対立の歴史からみれば、例外的な時期だった。モスクワは黒海とエーゲ海をつなぐダーダネルス海峡、マルマラ海、ボスポラス海峡をトルコから手に入れることを歴史的に重視し、両国の関係はこの海洋ルートをめぐって第一次世界大戦前から緊張してきた。エーゲ海へ続く海峡を手に入れたいと考えたスターリンはトルコで共産主義革命を起こそうと画策した。その後もロシアはクルド労働者党(PKK)を支援してトルコを不安定化させようと試みた。最近のクリミア編入によってトルコに対するロシアの脅威は大きく高まり、いまやロシアとトルコの利益はカフカス、黒海、中東で衝突し始めている。

中東におけるロシアの原発戦略
―― 魅力的なモデルと地政学のバランス

2016年7月号

マシュー・コッテ/国際戦略研究所リサーチアソシエート(不拡散・核政策)
ハッサン・エルバーティミー/キングスカレッジロンドンポストドクトラル・リサーチャー

中東で原子力エネルギーが再び脚光を浴びている。2016年4月、ロシアの国営原子力企業・ロスアトムは、アラブ首長国連邦のドバイに事務所を開設した。エジプト、イラン、ヨルダン、トルコでのロシアの原子力プロジェクトを統括することがこの事務所の役割だと考えられている。「原子炉を現地で建設、所有、稼働し、電力を相手国に約束した価格で供給する」。これがロシアのビジネスモデルだ。モスクワ原子力関連の訓練と教育を相手国に提供することも約束しており、現地での雇用創出も期待できる。一方、モスクワは電力の売り上げだけでなく、電力供給プロセスを通じて中東諸国との経済的つながりも強化できる。しかし、シリアのバッシャール・アサドを支援することで、中東の地政学に関与しているだけに、ロシアが中東での原子力市場シェアを拡大できるかどうかは、テクノロジーとサービスを安価に提供することだけに左右されるわけではないだろう。・・・

ギャンブラーとしてのプーチン
―― ロシアのクリミア編入プロセスを
検証する

2016年6月号

ダニエル・トレイスマン / カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授(政治学)

プーチンがみせた一連の衝動的な対応からみて、クリミア編入は領土拡張計画の一環でもなければ、NATO拡大への対応でもなかった。ヤヌコビッチ政権が倒れて以降のウクライナ危機をめぐるプーチンの最大の懸念は、黒海艦隊が終結する、クリミアのセバストポリ軍港のリース契約をウクライナが打ち切ることだった。逆に言えば、キエフが軍港の2040年までのリース合意を尊重するとモスクワに保証していれば、この2年間のロシアと欧米の関係悪化は避けられたかもしれないし、ロシアがクリミアの編入というハイリスクの戦略をとる必要もなかったかもしれない。問題は、クリミアへの介入と編入が、プーチンが管理可能な脅威をめぐってさえ過大な戦略リスクを引き受けるようになったことを象徴していることだ。ウクライナであれ、シリアであれ、プーチンは危機に大胆かつ衝動的に対応することで、ロシアと世界に新たな危機を作り出している。

Page Top