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ロシアに関する論文

関係修復へと動いたロシアとサウジの思惑
―― 中東の影響力をめぐる攻防

2017年12月号

アンナ・ボーシェフスカヤ ワシントン近東政策研究所 フェロー

1932年の王国誕生以降、サウジアラビアとソビエト・ロシアは、中東におけるほぼすべての戦争や対立をめぐってことごとく別の立場をとってきた。しかし、2000年5月にロシアの権力者となったプーチンは、米サウジ関係の緊張をうまく利用しようと、2007年にリヤドを訪問した。プーチンはリヤドとの経済関係を強化し、アメリカと中東同盟国の関係に楔を打ち込みたいと考えている。停滞するロシア経済が外国投資を必要としていることも理解している。一方サウジは、「経済的インセンティブを与えることで、ロシアがイランに距離を置くように仕向けられる」と考え、シリア問題をめぐっても、ロシアとの関係を通じて一定の機会を確保したいと考えている。今後の展開は予断を許さないが、少なくとも、プーチンはサウジの国王や皇太子以上に多くのカードをもっている。

ロシアの軍事的復活と地政学的野望
―― 偶発戦争を回避するには

2017年12月号

アイボ・H・ダールダー 元米NATO大使

軍備を増強し、軍事態勢を刷新したモスクワは「ロシアは再び重要な国となり、国際社会が無視できない存在になった」と、新たに自信をもち始めている。プーチンは「今後もロシア人と、外国で暮らすロシア系住民の権利を積極的に守り続ける」と主張し、「私が対象としているのは、自分を幅広いロシア・コミュニティーの一員と考えている人々だ」とさえ語っている。この発言を前に、1930年代のドイツの声明を想起した人は多いはずだ。プーチンは、近隣諸国を脅かし、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させようと、ロシア軍の近代化を大がかりに実施し、公然と軍事力を使って既成事実を作り上げつつある。しかも、この行動はヨーロッパとの境界線に留まるものではない。北は北極海から、南は地中海までの広い地域へロシアは軍事的影響力を拡大している。

民主国家に浸透する権威主義
―― 蝕まれるリベラルな民主主義

2017年11月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所  ディレクター

欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・

米天然ガス輸出が変える欧州の地政学
―― ロシア対アメリカ

2017年10月号

アグニア・グリガス アトランティック・カウンシル  シニアフェロー

2014年末にLNG輸入インフラを建設するまで、リトアニアはロシアからパイプラインで供給される天然ガス資源に完全に依存してきた。ロシアは、この状況につけ込み、政治的緊張が高まると、東中欧諸国向けの天然ガス価格を引き上げ、資源を政治ツールとして用いてきた。だが、いまやアメリカのLNGがヨーロッパ市場に流れ込み始めた。8月に実現したテキサス州からリトアニアへのLNG輸出は、アメリカが天然ガスをめぐるパワフルなグローバルサプライヤーとなりつつあることを示しているし、米企業はガスプロムの伝統的市場でも市場競争を積極的に展開していくつもりだ。これによって、米ロ間の地政学に新たな変数が持ち込まれる。ロシアというサプライヤーへ依存し続けることを長く心配してきたヨーロッパの資源輸入国は、その不安から解放されることになるだろう。

バルカンに対するロシアの野望
――クロアチアはロシアの攻勢を阻めるか

2017年9月号

ダグマール・スキルペック 南東ヨーロッパ分析者

プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。すでにボスニアでは、プーチンの財政支援によって勢いづいたスルプスカ共和国のミロラド・ドディク大統領が分離独立を強く求めている。これが実現すれば、1990年代のバルカン紛争のような事態が再現されかねない。救いは、クロアチアがハンガリーやポーランドで勢力を拡大しつつあるナショナリズムを寄せ付けていないことだ。クロアチアは今やヨーロッパ南東部のリーダーであり、この国の政治状況が地域のダイナミクスに大きな影響を与えている。欧米はクロアチアの穏健派政府が、ロシアの影響力拡大に対抗していく上でのもっとも力強い(防波堤、そして)同盟相手であることを認識する必要がある。

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

シリア東部をめぐる米ロ・イランの攻防
―― シリアにおける政治ゲームの始まり

2017年7月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

イラクと国境を接するシリア東部をめぐる攻防戦が始まっている。すでにアメリカは4月にアサド政権をミサイル攻撃しただけでなく、5月には親アサド勢力を空爆し、シリアのクルド人勢力への軍事援助の強化を発表している。ロシアとイランも、シリア東部におけるイスラム国勢力の崩壊によってシリア政府が失地を回復するチャンスがもたらされると考え、アサド軍支援を強化している。特にテヘランはイランからイラク、シリア、そしてヒズボラが支配するレバノンをつなぐシーア派の回廊を形成することを狙っている。当然、米ロの安全に関する覚書が、今後シリアにおいて試されることになるし、控えめにみても偶発事故が起きる危険は高まっている。いまやアメリカとその同盟国諸国の部隊が、アサドの部隊だけでなく、アサドを支えるロシアやイランの部隊と直接的軍事衝突に巻き込まれる恐れが出てきている。

日本のプラグマティズム外交の代償
―― 安倍外交の成果を問う

2017年5月号

トム・リ ポモナカレッジ助教授

フィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領のようなとかく論争のある指導者たちと進んで接触する安倍首相は、長期的な経済・安全保障上のアジェンダのためなら、自らの信条を傍らに置き、短期的に政治リスクの高い動きをとることも辞さないつもりのようだ。確かに、世界的にネオリベラルな規範が衰退するなか、反リベラル主義を掲げる指導者たちと関わりを持つことの政治リスクが少なくなっているのは事実だろう。しかし、こうした権威主義的指導者と付き合うことで、果たして結果を出せただろうか。さらに、民主国家としての日本の名声を危機にさらしてはいないだろうか。権威主義的な指導者たちと付き合うことに派生するリスクからみれば、安倍首相にとっては世界の民主主義のリーダーという日本の名声を守ることがよりプラグマティックな路線ではないだろうか。そうしない限り、いずれ彼は歴史の間違った側にいる自分を見出すことになるだろう。・・・

トランプとプーチンのゲーム理論
―― 相互不信と関係の冷却化

2017年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

トランプもプーチンもかなりのパラノイアで、トランプはおもに国内に、プーチンはおもに外国に敵を見いだしている。こうした人物たちが、本質的な問題をめぐって協力していけるはずはない。2人の性格からみて、トランプもプーチンも、相手が約束を守るはずはないと考えるだろう。客観的にみて合意が双方に恩恵をもたらす場合でさえ、2人は「相手が約束を守り、自分が約束を守らなければ、取り分はさらに多くなる」と考えるかもしれない。ともに相手の過去の行動がどのようなものかを十分に理解していないとしても、2人の相互不信は今後ますます大きくなり、アメリカとロシアの関係は早晩、冷え込んでいく。アメリカの死活的利益がプーチンによって脅かされているのは、そうすることがロシアの利益に合致するからではなく、プーチンが作り上げた体制とイデオロギーが、そうした政策を必要としているからだ。・・・

ドイツが主導するヨーロッパの防衛強化
―― ベルリンに何ができるか

2017年3月号

ステファン・フローリック トランスアトランティック・アカデミー シニアフェロー

トランプのアメリカがグローバルなリーダーシップからまさに手を引こうとし、イギリスが欧州連合(EU)からの混乱に満ちた離脱プロセスに足をとられるなか、リベラルな秩序と米欧関係の今後を心配するヨーロッパ人やアメリカ人の間では、アメリカに代わってドイツが「リベラルな秩序」のリーダーになるのではないかと期待されている。しかし、これは希望的観測というものだ。ドイツはすでに国内と国境線における危機対応に気を奪われている。世界におけるリベラルな覇権国としてのアメリカにドイツが取って代わることができないのは、純粋にそうした力をもっていないからだ。しかし、ベルリンが世界の出来事に無頓着なわけではない。ドイツとそのパートナーは、(NATOからの離脱も辞さないとする)トランプの恫喝策を、機能不全に陥っているヨーロッパ政治を立て直す機会にできるかもしれない。

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