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ロシアに関する論文

リベラル・ワールド
―― リベラルな秩序が今後も続く理由

2018年7月号

ダニエル・デュードニー ジョンズ・ホプキンス大学准教授(政治学)
ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授(政治学・国際関係論)

数十年前に欧米世界では淘汰されていたはずの世界政治の暗黒思想が息を吹き返している。だがこの風潮をリベラリズム理論への反証、そしてリベラルな民主主義とその国際秩序の解体の兆しとみなすのは間違っている。国際関係理論としてのリベラリズム、統治システムとしてのリベラルな民主主義、そしてグローバル政治の包括的枠組みとしてのリベラルな秩序のオビチュアリー(死亡記事)を書くのは時期尚早だろう。経済、安全保障、環境領域での相互依存状況が続く限り、各国の市民と政府は、問題を解決し、深刻なダメージから逃れるために、互いに協力せざるを得ない。その必要性ゆえに、協調行動が今後も続けられ、リベラルな秩序を支える制度は強化されていくだろう。

欧米経済の衰退と民主的世紀の終わり
―― 拡大する「権威主義的民主主義」の富とパワー

2018年6月号

ヤシャ・モンク  ハーバード大学講師(行政学)
ロベルト・ステファン・フォア メルボルン大学講師(政治学)

北米、西ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本という、第二次世界大戦後にソビエトに対抗して西側同盟を形成した民主国家は、19世紀末以降、世界の所得の大半を占有する地域だった。しかしいまや、この1世紀で初めて、これらの国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は半分を割り込んでいる。国際通貨基金(IMF)は、今後10年もすれば、その比率はかつての3分の1へ落ち込むと予測している。今後を見通す上で現実的なシナリオは二つしかない。一つは中国を含む、世界でもっともパワフルな独裁国家の一部がリベラルな民主国家に移行すること。もう一つは、民主主義の支配的優位の時代が、敵対する政治体制との闘争という新時代が到来するまでの幕間の出来事に過ぎなかったことが立証されることだ。いずれの場合も、欧米民主主義の時代が終わりを迎えるのは避けられない。

プーチノミクスの驚くべき成功
―― 成長よりも安定を重視する狙いは何か

2018年4月号

クリス・ミラー フレッチャー法律外交大学院准教授

原油価格の暴落と欧米による経済制裁という大きな圧力にさらされているために、ロシア人を含む、内外の専門家の多くは、経済危機がウラジミール・プーチンの権力を脅かすのではないかと考えてきた。しかし、これまでのところ、そのような兆しはない。ロシア経済は安定しているし、インフレも歴史的な低水準で、予算もほぼ均衡している。プーチノミクスの大きな特徴は、高賃金と経済成長を目指すのではなく、むしろ、失業率を低く保ち、年金を着実に支払うことを重視することで、社会不満の高まりを抑え込んでいることにある。債務とインフレを低く保つことで、マクロ経済の安定を心がける「プーチノミクス」は、ロシアを豊かにすることではなく、国内を安定させ、エリートの権力を維持することを目的にしている。

ロシア封じ込め政策を提言する
―― もはや攻撃を看過すべきではない

2018年3月号

ロバート・D・ブラックウィル(米外交問題評議会シニアフェロー)
フィリップ・H・ゴードン(米外交問題評議会シニアフェロー)

ロシアが地域的にも世界的にもより大きな役割を果たすには、アメリカのパワーを弱めなければならないとプーチンは判断しているようだ。アメリカ社会を分断させ、すでに存在する亀裂をさらに大きくしようと試み、国家としての一体感と統合そのものを攻撃のターゲットにしている。すでに米政府の最新の国家安全保障戦略も、ロシアは「情報ツールを使って民主主義国家の正統性を傷つけようとしており、アメリカのパワー、影響力、そして国益に挑戦している」と結論づけている。問題は、ロシアの攻撃に対するアメリカのこれまでの対応がひどく不適切なことだ。ワシントンは、モスクワに真のダメージを強いる措置を講じる一方で、未来の攻撃に備えて防衛を強化し、モスクワの路線にもっとも脅かされるヨーロッパ同盟国への軍事的コミットメントを強化しなければならない。

ロシアが歴史に向き合わぬ理由
―― 国内的抑圧と対外的膨張主義を正当化するために

2018年2月号

ニキータ・ペトロフ 「メモリアル」研究教育センター副理事長

最近のロシアでは、スターリン時代の怪物たちが歴史的復権を果たしつつあり、プーチン大統領はスターリン時代のイデオロギーを都合よく利用している。実際、ロシア政府にとって、歴史は客観的に扱われるべきものではなく、国家イデオロギーを推進するためのツールなのだ。政府は常に正しく、たとえ過去の政策が多大な犠牲を民衆に強いたとしても、それは、政府が選んだ特別な道を歩み続けるためには必要だったとされる。現在のロシア政府は、強権政府のカルトを民衆の意識に植え付け、ロシア民衆と国の歴史的例外性、世界のロシア系住民を統合していくことの特別な価値を訴えるプロパガンダを唱えている。そうすることで、ロシアの対外的膨張主義と国内での抑圧を正当化しようとしている。

プーチンが思い描く紛争後のシリア
―― 戦後処理と各国の思惑

2018年2月号

ドミトリ・トレーニン カーネギー・モスクワセンター所長

バッシャール・アサドはダマスカスの権力を握っているかもしれないが、シリアの政治的風景はもはや元に戻せないほどに変化している。シリアはすでにアサド政権、反アサド、親トルコ、親イランの勢力、さらにはクルド人という五つの勢力がそれぞれに管理する地域へ実質的に分裂している。ロシアは、この現実を受け入れようとしないアサドだけでなく、紛争期の同盟国であるイランの動きにも対処していく必要がある。アサド政権だけでなく、イランやトルコのシリアに対する思惑が変化していくのは避けられず、これに関連するイスラエルの懸念にも配慮しなければならない。今後、外交領域で勝利を収めるのは、戦闘で勝利を収める以上に難しい課題になっていくだろう。

経済戦争時代と制裁
―― 抑止力としての経済制裁に目を向けよ

2018年1月号

エドワード・フィッシュマン 前国務省政策企画本部 経済制裁担当リードエキスパート

一部の諸国は、大国間戦争を引き起こさないように配慮しつつも、リベラルな世界秩序への挑戦を試みるようになり、もはや経済領域での抗争は避けられなくなっている。ワシントンがより多くの制裁措置を発動する政治的動機も高まっている。制裁措置は、イランの核開発など、「すでに存在する問題行動」を見直させる上で一定の成功を収めているが、いまや制裁を通じて「未来の問題行動」を抑止することを考えるべきだ。ここにおける課題は、危機が起きる前に、ワシントンの官僚たちが制裁システムを設計したことはなく、同盟諸国と制裁について事前に交渉したこともないことだ。しかし、いまや国際的軋轢の多くが生じているのは「戦争と平和の間のグレイゾーン」であり、この領域におけるもっともパワフルな「抑止力としての制裁システム」を確立する必要がある。

民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか
―― モスクワの策略に立ち向かうには

2018年1月号

ジョセフ・R・バイデン 前米副大統領
マイケル・カーペンター 前米国防副次官補

ロシア政府は政治腐敗まみれの泥棒政治システムを守ろうと、その生存を外から脅かす最大の脅威と彼らがみなす「欧米の民主主義」に対する国境を越えた闘いを挑んでいる。欧米を攻撃することで国内の政治腐敗や経済的停滞に人々が目を向けないようにし、ナショナリズム感情を煽り立てて国内の反体制派を抑え込み、民主主義国家を守勢に立たせることで欧米諸国が国内の分断線対策に専念せざるを得ない状況を作り出そうとしている。この環境なら、モスクワは国内の権力基盤を固めることに専念し、「近い外国」に対して思うままに影響力を行使できる。だが、プーチンとその取り巻きたちは、アメリカの民主主義の最大の強さは市民の政治参加にあることを理解していない。米大統領が対策を拒んでも、われわれが行動を起こす。

レーニン主義と習近平の中国モデル
―― 北京のボリシェビキ

2017年12月号

ニック・フリック イエール大学大学院  博士候補生(アジア研究)

ボリシェビキそして彼らが形作ったソビエトという国家は、中国共産党にとってモデルであり、反面教師でもあった。ソビエト崩壊の記憶ゆえに(その二の舞になるのを避けようと)中国共産党指導部は権力維持に向けた決意を固め、党が軍部を支配することの重要性を肝に銘じた。なぜ習近平が個人への権力集中や民衆の生活のより多くの側面への党の介入路線の強化へと動いているかも、これである程度説明できる。だが目的は変化した。習の「中国の夢」が約束するのは、ボーダーレスなプロレタリアの楽園ではなく、党の支配の下で、中華文明の栄光を取り戻すことだ。こうした固有のナショナリズムとレーニン主義の鉄の規律の組み合わせは、トルコからフィリピンにいたるまでの権威主義の指導者たちにとって、代表制民主主義に代わる魅力的な選択肢なのかもしれない。

民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
―― 中ロによる情報操作の目的は何か

2017年12月号

クリストファー・ウォーカー 全米民主主義基金 副会長(分析・研究担当)
ジェシカ・ルドウィッグ 全米民主主義基金 リサーチオフィサー

民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

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