Alesia Malinovskaya / Shutterstock.com

2026.6.19 Fri

複雑系と世界
―― 政策的対応とテールリスク

国家の脆弱性の基準は五つ存在する。中央集権型の統治システム、画一的で硬直的な経済体制、過大な債務とレバレッジ、政治的硬直性、そして近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないことだ。この基準に照らせば、世界地図は大きく違ってみえてくる。(タレブ、トレバートン)

人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。(タレブ、ブリス)

西洋の帝国主義が一時的であれ、大きな流れを作り出せたのは、「強制力を行使する地域」と「相手の同意を求める地域」を明確に区別していたからだ。「パワー面で見劣りする国が相手なら力で支配できるかもしれない。しかし、相手が帝国のライバルとなると、周到な外交とうまく調整された協調が欠かせない」。これが当時の考えだった。(ダンフォース)

嵐の前の静けさ
―― 次にブラックスワン化する国は

2015年1月号 ナシーム・ニコラス・タレブ ニューヨーク大学教授 グレゴリー・F・トレバートン 米国家情報会議議長

国家の脆弱性の基準は五つ存在する。中央集権型の統治システム、画一的で硬直的な経済体制、過大な債務とレバレッジ、政治的硬直性、そして近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないことだ。この基準に照らせば、世界地図は大きく違ってみえてくる。意外にもいつも混乱しているイタリアに脆弱性を示す兆候はない。政治危機が間欠泉のように吹き出すにも関わらず、うまく分権化されており、その都度、立ち直っている。一方、サウジは石油資源に経済を依存し、政治的に硬直的で、高度な中央集権国家だ。日本も「穏やかな脆弱性」を抱える国に分類できる。非常に大きな対GDP比債務残高を抱え、その多くの時期を通じて一つの政党が政治を支配し、輸出に依存し、「失われた10年」から完全には立ち直れずにいる。そして中国だ。過去の混乱で培った中国の体力は、債務や集権化という弱点を補うほどに強靱だろうか。おそらく答はノーだ。時が経つにつれて、北京がブラックスワン化するリスクは高まっていく。・・・・

ブラックスワンの政治・経済学
―― ボラティリティを抑え込めば、世界はより先の読めない危険な状態に直面する

2011年7月号 ナシーム・ニコラス・タレブ ニューヨーク大学教授(リスクエンジニアリング) マーク・ブリス ブラウン大学教授(国際政治経済学)

小規模な山火事を阻止しようと対策をとれば、より大規模な火事が起きる危険を高めてしまう。山という自然の一部は、より大きな複雑系の一部だからだ。人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。誤解が生じるのは、人類が直線系の領域において歴史的に洗練度を高めてきた分析を、複雑系にもそのまま当てはめて考えようとするからだ。2007―2008年の金融危機、最近の中東における革命はその具体例だ。したがって、状況を変化させようとするよりも、人間が不完全な存在であることを織り込んだ、柔軟なシステムで、自然に対応していくべきだ。変動や衝撃を抑えようと政策的に模索するのはよいことのようにも思えるが、結果的に非常に大きな事態急変のリスク、つまり、テールリスクを高めてしまう。

解体する秩序と帝国主義の教訓
―― 強制力と合意の間

2015年10月号 ニック・ダンフォース ジョージタウン大学 博士候補生(歴史)

西洋の帝国主義が一時的であれ、大きな流れを作り出せたのは、「強制力を行使する地域」と「相手の同意を求める地域」を明確に区別していたからだ。「パワー面で見劣りする国が相手なら力で支配できるかもしれない。しかし、相手が帝国のライバルとなると、周到な外交とうまく調整された協調が欠かせない」。これが当時の考えだった。このコンセンサスを無視して、ヨーロッパで帝国の建設を目指したヒトラーの試みは、悲劇を引き起こした。プーチンが、ロシアが主導する独立国家共同体(CIS)を形作ったのは繁栄を共有することを考えたからではない。帝国主義国家が世界の多くの地域を力で統治することに道を開いた国家パワーの格差がいまや消失し、新たな枠組みを考案する必要に迫られたからだ。すでに各国間、地域間のパワーの格差は消失している。ここでかつての帝国主義の歴史からどのような教訓を引き出すか。帝国にノスタルジアを抱くのも、帝国の強制力を正当化するのも間違っている。・・・

Current Issues

Focal Points アーカイブ

Focal Points

過去のトップページ特集

Focal Points アーカイブ

最新のSubscribers' Only公開論文

デジタルマガジン

本誌最新号紹介

2026年6月号(2026年6月10日発売)

Contents

  • 北朝鮮の驚くべき台頭
    金正恩の勝利

    チュン・H・パク

  • 日韓の核武装論を再検証する
    核拡散の連鎖を防ぐには

    ビクター・チャ、クリスティ・ゴヴェラ

  • 経済戦争をいかに戦うか
    分断された世界と経済的繁栄

    エドワード・フィッシュマン

  • 重要鉱物という不確実性
    求められるルールと規制

    ラバ・アレズキ、フレデリック・ファンデルプルーフ、マイケル・ロス

  • 米欧中トライアングル
    米欧対立とヨーロッパの選択

    達巍

  • 米中関係と同盟諸国
    トランプリスクと中国リスク

    マイケル・コブリグ

  • 米国に背を向けたアラブ諸国
    中ロと欧米の逆転

    アマネイ・A・ジャマル、マイケル・ロビンス

  • イラン戦争とサウジ
    アメリカ後の中東と新多国間枠組み

    マリア・ファンタッピー、バリ・ナスル

他全9本掲載

Page Top