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2025.4.1 Tue

アメリカの競争的権威主義
―― ハンガリーモデルと米民主主義の終焉

アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。(レヴィツキー、ウェイ)

トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。(ミッキー、レヴィツキー、ウェイ)

「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。(レンドバイ)

トランプと競争的権威主義の台頭
―― 米民主主義は崩壊するのか

2025年4月号 スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学 政治学教授 ルーカン・A・ウェイ トロント大学 政治学部特別教授

アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
―― ドナルド・トランプと競争的権威主義

2017年6月号 ロバート・ミッキー ミシガン大学准教授(政治学) スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学教授(政治学)  ルキャン・アハマド・ウェイ トロント大学教授(政治学)

トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・

独裁者の台頭とハンガリーの衰退
―― ビクトル・オルバンの変節

2019年11月号 パウル・レンドバイ ジャーナリスト

「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。憲法を改正し、憲法裁判所を意のままにし、メディアを押さえつけて管理し、政権に依存する社会経済エリート層を作り出した。ハンガリーのある政治家によれば、オルバンのハンガリーは「ポスト共産主義のマフィア国家で、それを率いるのは政党ではなく、ビクトル・オルバンの政治経済派閥だ」。オルバンは政府を批判する者を非愛国的な反逆者と非難し、自らの失敗やミスを欧州連合のせいにしている。・・・

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2025年4月号(2025年4月10日発売)

Contents

  • 支離滅裂な関税政策
    壊滅的な間違い

    チャド・P・ボウン、ダグラス・A・アーウィン

  • トランプと競争的権威主義の台頭
    米民主主義は崩壊するのか

    スティーブン・レヴィツキー、ルーカン・A・ウェイ

  • ウクライナ戦争は続く
    ロシアに対する恐怖

    ナターリヤ・グメニュク

  • 同盟の流動化と核拡散潮流
    次の核時代に備えよ

    ギデオン・ローズ

  • 勢力圏の復活
    停戦交渉は第2のヤルタなのか

    モニカ・ダフィー・トフト

  • 領土拡張時代の到来
    気候変動と土地・資源争奪戦

    マイケル・アルバータス

  • 対中デカップリング
    衝撃を抑え、効果を最大化するには

    スティーブン・G・ブルックス、ベン・A・バーグリー

  • 反欧米枢軸と中国の立場
    北京はロシア、北朝鮮をどうみているか

    セルゲイ・ラドチェンコ

他全10本掲載

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